公認内部監査人(CIA)という資格を耳にしたことはありますでしょうか?
内部監査というと、社内のシニア層がメインで活躍していて自分にはあまり関係なさそう…と思っていませんか?
すでに内部監査業務に従事されている方も、資格を取っても別に何も変わらないから取らなくてもいいかな…と思っていませんか?
本稿では、公認内部監査人資格を取得するメリットと合格するまでの道のりをご紹介します。
著者について:Jennie
人事異動により内部監査部に異動したところ、内部監査経験がなく右も左もわからなかったため、上司からまずは公認内部監査人資格の勉強をして内部監査の基本的な全体像を理解するように指示される。1年間の勉強後無事合格。現在は資格を活かし、アメリカで内部監査マネージャーとして勤務。
監修者:Ryo
大学大学中に日本の公認会計士試験に合格し、大手監査法人に勤めた後スタートアップでIPOや投資を経験。その後アメリカにMBA留学し、卒業後に現地の会計事務所に就業経験あり。公認会計士・USCPA。簿記3級〜1級を保有。
Contents
公認内部監査人(CIA)とは
公認内部監査人とはCertified Internal Auditor(CIA)のことで、アメリカにあるThe Institute of Internal Auditors(IIA)が認定する国際的な資格です。
内部監査人の能力と専門性を証明する資格として、内部監査業界のスタンダードとなっています。CIA資格認定試験は1974年に開始され、今や世界約190の国と地域で実施されています。
世界中におよそ17万人以上、日本では2020年3月末の時点で1万人以上がこの資格を保有しています。
CIA資格のニーズ
グローバル企業はもちろん、日本企業の多くもガバナンスの強化を目指すなか、内部監査の専門性を証明するCIA資格のニーズは高まっています。
企業によっては、CIA資格認定試験の受験料のみならず、アビタスなどのスクール通学費用も補助しているようです。ちなみに筆者が勤務するアメリカの会社では、CIA資格認定試験に合格すると1500ドルほどの報奨金がもらえます。
監査人としての実務要件を満たし3科目の学科試験をパスすると、公認内部監査人として登録できます。
資格が一度認定された後も、毎年40時間相当の継続教育単位を報告する義務があり、公認内部監査人のレベルの維持向上が図られています。
筆者が内部監査人として外資系企業に転職活動をした際も、面接官に「CIAをお持ちなのだから、内部監査の基本はわかっていますよね」とCIA資格を持っていることが評価されました。
筆者は現在アメリカでグローバル企業の内部監査業務に従事しているのですが、同僚のアメリカ人の監査人はみんなCIA資格者です。直接には監査をしない担当者もCIA資格者です。
一方、日本で勤務していた際はCIA資格を持っている同僚は数人程度でした。日本では需要と比較してまだ取得者が少ない資格なので、CIA資格を取得することで他の監査人と差をつけることができます。
公認内部監査人取得のメリット
CIA取得のメリット1: 社内での評価
みなさんが勤務されている組織でCIA資格をお持ちの方はまだ少数派ではないでしょうか。
CIA資格者を増やすため、会社によってはCIA資格の取得を仕事目標の一つに掲げているところもあるようです。
CIAを取得することで仕事の評価が上がるのなら、CIAの勉強も仕事として取り組もうという気持ちになりますね。
筆者が以前勤務していた日系企業では、内部監査部内のCIA資格者の数を定期的に監督省庁へ報告していました。
監督省庁も、CIA資格者が多い組織では内部監査のレベルがより高いと認識しているようでした。
資格取得者を監督省庁へ報告する必要がある関係で、社内ではCIA資格の取得をかなり積極的に奨励していました。
CIA取得のメリット2: 内部監査人としてのキャリア構築
CIA資格を取得することで、社内の評価が上がるのはもちろん、内部監査人としての長期的なキャリア構築にも間違いなく役立ちます。
日系企業にお勤めで、定期的な人事異動がありなかなか特定の分野で専門性が身につかないとお悩みの方は、CIA資格の取得を機に内部監査人として専門性を高め将来的に転職することを検討してみてはいかがでしょうか。
実際に筆者がCIA資格を取得した後、その旨をLinkedInに記載したところ、採用エージェントからの連絡頻度が格段に増えました。
内部監査人は幅広い業界で求められる専門職なので、今の勤務先の業界にとらわれることなく転職活動をすることができます。
日本でも内部監査人の求人は数多くありますが、筆者が現在住んでいるアメリカでは日本の比にならないほど多くの求人があり、多くの企業は少しでも確実に内部監査人を採用するため、年収レベルを上げたり、フルリモートでの勤務を認めたりしています。
年収レベルは、業界や会社規模、就労条件にもよりますが、アメリカでは監査経験3年程度のジュニアなポジションで少なくとも$50,000程度(1ドル140円換算だと、700万円)で、CAE(Chief Audit Executive)と呼ばれる内部監査部長の役職であれば$300,000程度(1ドル140円で4200万円)に達する会社もあります。
内部監査とは?
内部監査の業務
そもそも内部監査とは何をするのでしょうか。
内部監査部門は、会社の内部統制が適切に設計され機能しているか、社内の財務諸表が誤りなく作成されているか、また不正が行われていないかをチェックし、監査委員会(会社によっては監査役)とCEOに報告します。
例えば、給与支払の適切性を監査する場合、内部監査人は人事部門が毎月作成する給与支払の元データを確認し、人事部の担当者が人事データの変更を漏れなく補足できているか、データに誤りがないかの確認をしているか、データは社内の規則通りに管理されてれているか、人事部門が不正をしていないか、不正の隙はないかなどをチェックします。
これに対し監査人は他部門の業務のなかで改善すべき点を見つけ指摘し、改善のためのアクションプランが実施されているかフォローアップします。
内部監査の機能
社内全体を見渡してリスクが高いと判断した部門や業務に対して監査をすることもあれば、経営陣から「ここの部署の業務を監査して報告してほしい」と依頼を受け監査することもあります。
また、監査だけでなく、依頼に応じて社内の他部署に対しコンサルティングを提供することもできます。監査した内容は監査報告書やメモにまとめ監査委員会や経営陣に報告します。
日本ではまだ社内の取締役が監査委員に就いていたり、そもそも監査委員会の設置がない会社もありますが、内部監査が発展したアメリカでは、監査委員は基本的に社外取締役で構成されており、社外の監査委員会と社内の経営陣に監査結果を報告することで、監査委員会からの監視を強め、また経営陣に改善行動を促す効果があります。
CIA資格認定試験
受験手続き
CIA資格はどのように取得できるのでしょうか。
CIA資格認定試験はアメリカのIIAが管理する資格ですが、日本ではIIAの日本代表機関である日本内部監査協会が受験手続きなどの窓口となっています。
CIA資格認定試験の受験を申し込むためには、まずIIAが管理するウェブサイト(CCMS)上で個人情報を登録しアカウント番号を取得します。その後、日本内部監査協会にCIA試験受験の申込書を郵送し、受験登録料や試験受験料を支払います。
その後日本内部監査協会とIIAでの手続きが完了次第、CCMSで試験受験の具体的な日程を申請します。
試験手続きの詳細は、日本内部監査協会の提供する認定資格受験者ハンドブックに記載がありますので、ご参照ください。
CIA資格を取得するには、試験合格のほか実務要件を満たす必要がありますが、実務要件を充足するのは試験受験前でも、あるいは合格後でも問題ありません。
ただし、実務要件と試験合格が二つとも揃ってから初めて資格が取得できます。
合格率
CIA資格認定試験では、パート1から3までの3科目の試験をそれぞれ受験する必要があります。
すべて4択の試験で、自宅のPCで受験可能です。科目ごとの試験テーマと出題数、試験時間は以下のとおりです。
テーマ | 出題数 | 試験時間 | |
パート1 | 内部監査に不可欠な要素 | 125問 | 2時間30分 |
パート2 | 内部監査の実務 | 100問 | 2時間 |
パート3 | 内部監査のためのビジネス知識 | 100問 | 2時間 |
パート1は内部監査の基準、ルールの実践的な理解を問うもので、パート2は内部監査のより実務に近い部分、パート3ではITを使った監査技法やビジネス知識が問われます。
特にパート1とパート2は重複する部分が多いため、まずは一通り試験範囲全体を勉強した後で、受験するパートの試験勉強を開始することをおすすめします。
試験は複数の言語で受験することが可能で、日本語で受験することもできます。
とはいえ、たまに問題文の日本語に違和感があることもあるので、英語がわかる方は英語で受験するのも選択肢としてお考えいただいてもいいかもしれません。
筆者は日本語で受験しましたが、意図がわかりにくい問題に出会ったときには英語に切り替えて意味を確認しました。
CIA試験のスコアは、各パートごとに750点満点のスケールドスコアに換算されます。
スケールドスコアとは、試験の開催回ごとに難易度が異なることを考慮し、得点を補正して算出されるスコアです。
算出の基礎は開示されておらず、どの問題が何点相当なのか自分で知ることはできませんが、600点(約75%)を取れれば合格です。
合格率も開示されていませんが、およそ4割程度の合格率ではと言われています。
費用
CIA資格認定試験の受験費用はIIAの個人会員か否かで値段が変わります。
日本内部監査協会でIIAの個人会員としての登録がある場合と登録がない場合、それぞれの受験登録料と各パートの受験料は下表のとおりです。
IIA個人会員 | 個人会員でない場合 | |
受験登録料 | 13,000円 | 27,000円 |
パート1 | 35,000円 | 51,000円 |
パート2 | 31,000円 | 47,000円 |
パート3 | 31,000円 | 47,000円 |
計 | 110,000円 | 172,000円 |
個人会員の年会費が20,000円なので、個人会員に登録した方がお得に受験できます。
今後の記事でもご紹介しますが、個人会員ですと継続教育のセミナーの割引があるので内部監査業界で長くキャリアを構築されることをお考えの方は、CIA資格認定試験受験時に個人会員に登録されることをおすすめします。
試験受験方法
まずはCCMSというサイトでアカウントを作成します 。CCMSは英語での利用を想定したサイトではありますが、言語設定を変更すると日本語でも利用可能です。
CCMSのアカウント番号がメールで送られてきたら、日本内部監査協会のホームページからCIA試験申込書をダウンロードし記入のうえ日本内部監査協会に送付しましょう。
日本内部監査協会にCIA試験申込書を送付し受験費用を支払うと、日本内部監査協会とIIAでの手続きが完了次第、IIAから手続きが完了した旨のメールが届きます。
ちなみに、この初期登録が完了してから3年以内に全パートの試験に合格し実務経験の承認手続きを完了させないと、合格したパートは失効し再度初期登録からやり直す必要があります。
また、IIAのメールを受け取ってから180日の間に受験しないと受験料が失効しますので、その点も注意してください。
IIAからのメールでCCMSというサイトへの登録を促されますので、名前や住所などの個人情報を登録します。
英語での利用を想定したサイトではありますが、言語設定を変更すると日本語でも利用可能です。
CCMSで学歴と実務経験も登録します。学歴によって求められる実務経験の長さが変わり、大学卒の場合は2年間の内部監査あるいはそれに類する経験が求められますが、大学院卒の場合は1年間の経験で要件を満たすことができます。
内部監査に類する経験には、監査法人での外部監査はもちろん、リスクマネジメント業務も含まれますので、実際にはかなり幅広い業務が該当するのではないかと思います。
CCMSで実務要件について入力すると、入力内容に誤りがないか確認するため勤務先の上長などの連絡先を求められます。
上長の名前と連絡先を入力し登録すると、その方にIIAからメールが送られます。上長がCCMSに入力された内容に誤りがないことを確認すると、実務経験の登録手続きは完了です。
勤務先で英語ができる上長の方に、IIAからメールが送付される旨をあらかじめ伝えておくと良いでしょう。
アビタスなどの予備校でCIA資格認定試験対策講座を受講すると、予備校が実務経験の確認を代行してくれます。
本来であれば会社の上長に依頼すべきところを、予備校から予め指定された連絡先を記載すると予備校が実務経験を確認してくれるため、身近にCIA資格者や英語ができる上司がいない場合は、予備校に依頼してしまえば実務経験の登録手続きを簡単に済ませることができます。
試験を受験したいパートをCCMSで登録すると、外部のPearson VUEのサイトに遷移し、試験日程を選択します。
パンデミック前は外部の試験会場で受験していたようですが、2020年5月より自宅のPCから受験することが可能になりました。
自宅からの受験は一時的な措置として開始されましたが、2022年現在も継続しているようです。
Pearson VUEで試験日程を選択し予約すると、確認メールが送られてきます。
試験の注意事項が細かく記載されているので、メールをよく確認してください。自宅から受験する場合、試験時間中はPCのカメラから試験官が受験者の様子を厳しく確認しています。
筆者が受験した際は、受験中に何度も試験官から連絡や注意を受け、カンニングなどとてもできる状況ではありませんでした。
試験当日は受験開始の1時間ほど前にはパソコンの準備をしましょう。
本人確認や試験を受験する部屋の環境を確かめるため、パスポートなどの本人確認書類や自分の顔に加えて、受験する部屋を指示されたとおりの方向で撮影します。
この段階で試験官の確認にかなりの時間がかかります。
試験官から「追加で写真を撮影してほしい」「部屋にある物をどかしてほしい」などの指示を受けることがありますので、適切に対応しましょう。試験官からの指示はすべて英語ですが、難しい英語ではないので指示のとおりに対応していれば問題ありません。
受験を終えると、会場受験の場合は会場で仮結果を受け取ることができます。
自宅受験の場合は試験結果が24時間後から48時間後にCCMSに反映されます。
合格していた場合は合格としか表示されませんが、不合格の場合は全体のスコアと分野ごとの得点傾向が表示され今後の勉強に活かすことができます。
資格取得後
無事3科目の試験に合格し、実務要件も充足すると晴れてCIA資格を取得できます。
CIA資格を取得すると、取得日の翌々年末までに継続教育要件を満たす必要があります。
内部監査または関連する活動に従事している場合は、取得日の翌々年末までに20単位、内部監査関連の業務に従事していない場合は40単位をCCMSで報告します。
1回目の継続単位報告を終えるとその後は毎年報告する必要があります。40単位を確実に獲得するために計画的な研修受講が重要となります。
CIA資格認定試験に合格するには
CIA試験対策講座受講
CIA資格認定試験は内部監査やガバナンスの知識、理解を問うものでとっつきにくく独学で勉強しにくい内容となるため、CIA試験対策講座を受講するのが一番の近道だと思います。
お勤めの会社によっては、特定のCIA試験対策講座を割引価格で受講できたり、講座の受講に対し会社の補助が出たりするようですので、講座の価格や会社の補助条件も確認してみましょう。
アビタスやTACがCIA試験対策講座を提供しています。通学コースだけでなく通信(オンライン)で完結できるコースもあります。ご自身のスケジュールに合わせて最適なコースを選びましょう。
- アビタス公式:アビタスで資料請求する
- TAC公式:TACで資料請求する
内部監査の理解を深める(パート1、2対策)
CIA資格認定試験は、内部監査の実際の業務の理解を問う問題も多く、テキストの内容を覚えただけでは合格が難しいです。
特にパート1では内部監査実務に精通していないと勘どころがつかめない問題が多く、実際筆者はパート1でつまづいてしまいました。
内部監査の実務経験が少ない方は、上記のCIA試験対策講座を受講後に、市販のCIA対策テキストや内部監査に関する書籍を読み内部監査に関する理解を深められることをおすすめします。
筆者は、アビタスのテキスト以外に、『公認内部監査人資格認定試験対応 内部監査基本テキスト』(中央経済社)や『内部監査入門』(KINZAIバリュー叢書)を読んで理解を深めました。
特に『内部監査基本テキスト』はボリュームがあり、アビタスのテキストが触れていない細かい点にも触れているので、自分の理解を確認しかつ知識を増やすのに重宝しました。
勉強の時間を確保する(特にパート3対策)
筆者の周囲にはパート1ではなくパート3で何回も不合格になってしまう内部監査人がちらほらいました。
パート3はCIA試験のなかでも一番範囲が広く、ITに関連するテーマも含まれるので苦手意識を持つ方もいるようです。
一方、パート3はパート1や2に比べると覚えてしまえば得点につながりやすい科目です。テキストを読み込んで理解したうえで模擬試験問題を解きながら、CIA試験対策講座で示された試験のポイントを覚えていきましょう。
パート3は勉強の時間さえ確保できれば確実に合格できる科目です。
アビタス割引キャンペーン
まとめ
CIA認定試験は決して難しい試験ではありません。
内部監査未経験の筆者でも1年間みっちり勉強した結果合格することができ、今ではアメリカで監査人として勤務しています。
上手く活用することができればキャリアの展望が広がる資格なので、興味がある方はぜひ一歩を踏み出してみましょう!