公認会計士のキャリアアップを考えるうえで、英語力の向上を図る方は多いと思います。
公認会計士は一般的に英語を得意とする人が少なく、公認会計士×英語のスキルが身につけば大きな武器になるでしょう。
しかし、「英語力を高めた方がいい」というような漠然としたモチベーションで、激務をこなしながら、継続的に英語を勉強し続けるのは非常に難しいです。
この記事では、そんな会計士の皆さんのため、
- 英語力を高めるとどんなメリットがあるのか
- どんなキャリアパスの広がりがあるのか
- どんな勉強方法があるのか
を具体的に示すことによって、「結局自分のキャリアにとって英語力ってどのくらい必要なの?」という疑問に答えたいと思います。
現在監査法人にお勤めで英語を武器にした転職を考えている方、英語を勉強しないといけないと漠然と考えているもののまだその一歩が踏み出せていない方、などなど英語を活かしたキャリアアップに興味がある方は是非御覧ください。
この記事の著者:もりはんくす
現役企業内公認会計士。大学在学中に公認会計士試験に合格し、BIG4監査法人にて約4年働いた後、外資系事業会社へ転職し経理部として勤務。1児の父。趣味は野球。
監修者:Ryo
大学大学中に日本の公認会計士試験に合格し、大手監査法人に勤めた後スタートアップでIPOや投資を経験。その後アメリカにMBA留学し、卒業後に現地の会計事務所に就業経験あり。公認会計士・USCPA。
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Contents
監査法人で英語力は必要?
具体的な公認会計士×英語の転職によるキャリアパスを解説する前に、公認会計士の多くがファーストキャリアとして選択する監査法人において、英語力がどの程度必要とされるのかについて解説します。
就職
監査法人の就職において、英語力は決して求められません。
エントリーシートにおいてTOEICの点数を記載することを求める法人もありますが、TOEICの点数が低いために、監査法人の内定が貰えなかったということはまずありません。
しかし、もし日系グローバル企業(例えば総合商社)や、外資系企業(例えば外資銀行)の監査を担当するような部署を希望するのであれば、監査法人の就職時点で高い英語力を有していることが求められます。
もちろん新卒の年齢というだけでポテンシャルが見込まれ、その時点では英語力が高くなくてもそのような部署の希望が通ることもあります。
しかし、最近では学生合格が珍しくないため、就職時点で英語力があることは大きな差別化のポイントになります。
監査法人の就職で英語面接は無いため、TOEICの点数を上げておく、短期でもいいので海外留学に行っておく、というのが有効です。
また、英語力をある程度付けておかないと、そういった部署に配属された後に苦労をするという面もあります。
筆者自身は公認会計士に学生で合格し、監査法人の就職時に将来的な海外派遣を希望して、総合商社や外資系企業を監査する部署に配属されました。
その時点ではTOEICは600点程度だったもののポテンシャルを見込まれて配属してもらいました。
しかし、配属先のチームでは先輩や上司が当たり前のように英語で会議をして、監査調書も英語で書かなければならないなど、最初は本当に苦労しました。
激務の中で英語を勉強するのは本当に難しく、英語力が高い同期の方が任せられる仕事の幅が増えていくといったこともありました。
経験が増えていくにつれてその差も縮まってはいきますが、英語力が必要な部署を希望するのであれば、できるだけ当初から英語力があった方がアドバンテージになることは間違いないでしょう。
社内でのキャリアアップ
一部の監査法人を除いて、監査法人内でのキャリアアップにおいて英語力は必ずしも出世の要件ではありません。
なぜなら、監査法人の多くの部署では英語を全く使わない、必要としないからです。
英語を全く使わない部署でも、しっかりと自分の仕事を全うし高い評価を受けていれば、シニアスタッフ、マネージャーと順調にキャリアアップをすることが可能です。
しかし、マネージャーに昇格する頃の時期に、自分の強みは何か、ということを問われるようになります。
マネジメント能力が高いのか、会計テクニカルに強いのか、業界知識が深いのか、といったように自分の強みを示していかなければ、マネージャー以降のキャリアアップを得られなくなります。
その中で、英語力というのは分かりやすい、差別化しやすい強みになります。
特にグローバル企業を監査するチームにアサインされた場合は、海外の子会社、親会社監査人とコミュニケーションを取ることが必ず求められます。
よってそのような海外の監査チームとコミュニケーションを円滑に取って監査チームをリードできる人材を会社は高く評価します。
また、シニアスタッフのうちに1年から2年程度の海外派遣プログラムに参加すれば、帰国のタイミングでマネージャーに昇格するといった場合も多く、マネージャーまでの昇格が比較的しやすくなります。
監査法人で英語は必須ではないものの、昇格や将来的なキャリアアップにおいて自分の強みになる、ということが言えます。
転職
公認会計士の転職においても、英語力は必須ではありません。こちらも監査法人と同様、全ての会社で英語が必要とされるわけではないからです。
しかし英語力が必須とされる業界、企業を希望するのであれば、英語力は大きな武器となります。
監査法人4、5年目以内の転職であれば、経験してきた仕事内容は公認会計士間で大きな違いはなく、差別化をすることは容易ではありません。
なので、経験年数が浅い公認会計士のセカンドキャリアにおける転職は、その多くがポテンシャル採用になります。
転職において自分のアピールできる場所は、履歴書と職務履歴書、そして面接時の受け答えしかない中で、高い英語力をアピール出来れば大きな差別化となります。
マネージャー職での転職であれば、経験してきたクライアントにより知見の深い業界や会計知識、マネジメント経験などで差別化を図ります。
しかしそこにおいても英語でのチームマネジメント、クライアントとの交渉経験などがあれば、人材としての希少性が高まります。
会計士×英語力で広がるキャリアと転職先
監査法人内でのキャリアアップにおける英語の必要性を確認したところで、英語力を高めることにより、会計士のキャリアが他にはどのように広がるのかを例をあげて解説します。
外資系経理
公認会計士と英語の両方のスキルがある場合に、まず転職先として考えられるのが外資系企業の経理です。
外資系企業では通常の日系企業とは異なり、社内のコミュニケーションが英語である場合が多く、会計系のバックグラウンドを持っていること、かつ英語力があることが求められます。
読み書きがビジネスレベルで出来るのはもちろんですが、ミーティングやチーム内の会話が英語で行われるため、スピーキングやリスニングの能力があることも重要です。
とはいえ、多くの日本人が英語を得意としないというのは企業も分かっていますので、ネイティブレベルで英語を操る必要性は必ずしもありません。
ゆっくり喋ってもらえば大体何を言ってるのかが分かる、拙いながらも自分の言いたいことを英語で表現できる、という程度の英語力があれば十分です。TOEICで言えば750点程度がスタートの最低ラインと考えればいいでしょう。
入社してから揉まれれば英語力は伸びることが分かっているので(特に会計士は地頭が最低限担保されており、かつ自分で勉強するというマインドセットがあるので)、読み書きがある程度出来て、英語へのモチベーションが高ければ、ある程度はポテンシャル採用してくれるところも少なくありません。
筆者も転職時はTOEICの点数は750点程度しかありませんでしたが、英語面接で最低限の受け答えが出来たために採用してもらうことが出来ました。
大事なのは英語を聞こう話そうとする姿勢を示すことで、最初から諦めないことが特に重要です。
当然入社後は大変苦労しましたが、英語で仕事をする環境の中で揉まれながら英語力を高めることが出来ています。
外資系企業の経理としてセカンドキャリアを選択した場合、その企業内で管理職までプロモーションすれば、会計士×英語×マネジメント経験のスキルが得られます。
その後は同様の外資系企業経理に転職し、経理部長ポジションなどのように役職アップを図る人が多いようです。
また、同じ外資系企業でも少し軸足をずらしてバックオフィスからミドルオフィスのようにフロントサイドにポジションを変える場合や、スタートアップ企業の経理部長のような役職に転職する方もいます。
日系グローバル企業経理
外資系企業でなくとも、日系グローバル企業も公認会計士と英語の両方のスキルがある場合の転職先として候補になります。
そのような企業の経理部では、海外子会社とのコミュニケーションや、現地法人への派遣、駐在など、会計のバックグラウンドを有しかつ英語を得意とする人材が求められるからです。
前述した外資系企業では、社内異動のハードルが高く、海外のオフィスへ駐在、転籍するチャンスがかなり限られており難しいのが現実です。
ゆえに将来的に海外に住みたい、海外で働きたいという場合は、外資系企業を転職先に選ぶことはあまりおすすめしません。
一方で、日系グローバル企業では海外派遣、駐在のチャンスが多い企業も多く、英語力を高めた後は実際に海外に行って働いてみたい、という志向の方にはより良い選択となります。
またそういった大手日系企業は給与水準も高く安定しているため、安定して働きたいという方にも合っていると言えます。
必要な英語力としては、就職時はTOEICの点数が750点程度あれば足きりされることはなく、面接も英語面接などはほとんどありません。
あまりにも英語が苦手だと入社後苦労するかもしれませんが、ある程度の英語力があればあとは実戦あるのみで、仕事をする中で伸びることを見込まれて採用されるというのが多いようです。
面接時に一番重要視されるのは、あくまでロジカルシンキングとコミュニケーション能力なので、こちらを志す場合は、英語に関してはTOEIC対策だけしておけば就職時までは心配ないでしょう。
FAS(Financial Advisory Services)
FAS業界も昨今ではクロスボーダー案件(国境を越えて行うM&A)が増えており、公認会計士と英語の両方のスキルがある場合の転職先として候補になります。
例えば、Big4の場合は公認会計士である限りは、最低限の読み書きさえできれば(TOEIC700点程度)、特に英語力で切られるということはありません(非会計士ならTOEIC900点程度は求められる)。
ただし、英語力次第でアサインに偏りが出るため、クロスボーダー案件に関与したいという場合はより高い英語力(TOEIC900点程度、ビジネスレベルのスピーキング、リスニング)を有して転職をした方がいいでしょう。
逆にPPAやDDをやりたい場合は、会計士の能力が優先されるので、英語力に対しては目をつむられる場合が多いようです。
FAS業界でのキャリアアップを考えた場合、一芸重視の傾向があるため、必ずしも英語が必須の評価ポイントになるわけではありません。
例えば、Valuationを極めればその道で上がれる可能性があり、その過程で英語が評価軸として重要視されるわけでは無いと言えます。
逆に監査法人では監査の質の良し悪しで評価の差別化が難しく、英語力であったり駐在経験といったサブスキルに評価の軸が置かれる傾向にあるような気がします。
しかし、昨今クロスボーダー案件が増えていることは確かなので、FAS業界でも会計士×英語力を有する人材はリソースとして貴重であり、キャリアアップがしやすい土壌にあることは間違いないでしょう。
公認会計士におすすめの勉強法
会計士×英語力のスキルセットを有した場合に得られるメリットや広がるキャリアの選択肢を確認したところで、実際にどのように英語を勉強すればいいのかについて、おすすめの方法を紹介します。
目標、目的のセット
まず学習方法を選択する前に、自分の英語の能力向上の目標や目的を具体的にセットしましょう。
具体的な短期目標が無いと、人は努力を継続するのが難しいからです。例えば以下のようになるべく具体的にします。
- 次の昇格要件であるTOEICの点数750点をクリアする。
- 海外駐在の募集要件であるTOEICの点数900点をクリアする。
- 外資系企業に転職するために、英語面接の対策をする。
勉強時間の確保
具体的な目標、目的をセットしたところで、次は勉強時間の確保が重要となります。勉強時間の確保を考える上で重要なのは次の2つです。
- 毎日やる
- 決まった時間にやる
平日は業務で忙しいのは百も承知ですが、毎日やりましょう。一番最悪なのはせっかく始めた学習がストップしてしまうことです。
週末だけドカッと勉強する、としてもいいのかもしれませんが、もし週末に遠出の予定などが入ってしまい1週間スキップしてしまうと、学習から2週間離れてしまいます。
一度例外を作ってしまうと次にまた勉強を再開するのが億劫になってしまい、そのままいつの間にかやらなくなってしまった、ということが誰にでも経験があるのではないでしょうか。
勉強の学習効率を考える上でも、毎日少しでも英語に触れるということを習慣化することを目指しましょう。
毎日学習を継続する上で、決まった時間にやるというのが効果的です。毎日決まった時間にやると習慣化されるからです。朝と夜どちらでもいいですが、筆者としては朝がおすすめです。
夜は残業であったり、友人同僚との食事であったり、例外的なスキップが生じやすいからです。朝は起きるのが辛いですが、自分さえ叩けば継続がしやすい時間です。通勤時間の電車の中でやる、と決めるのもいいでしょう。
筆者は監査法人時代、毎朝30分早く起きてオンライン英会話のレッスンを受けていました。
こちらは会社の補助制度があり、期間ごとに最低受講回数が決まっており、受講回数に応じて自己負担額が変動するというシステムだったので、そういった意味で強制力があったのもよかったと思います。
TOEIC対策
TOEICはリーディングとリスニングがありますが、どちらも対策が必要です。リーディングは単語帳による語彙力の強化と、英語の文章を毎日読むことが重要です。
英語の文章を読む場合は、短くてもいいので新しい文章を読むことと、何度も同じ文章を繰り返し読むことの両方をこなすと学習効率が上がります。
新しい文章については無料のニュースアプリでいいですし、繰り返し読む文章についてはTOEICの過去問や対策本の文章を使うのがいいでしょう。
リスニングについては、英語を聞くことも大事ですが、話すことも重要です。
通常リスニング対策というと英語を浴びるように聞け、とよく言われますが、私は昔からいくら英語を聞いてもリスニング能力が上がらず困っていました。
しかし、英会話や仕事で英語を話すようになってからリスニング能力が急に上がった気がしています。
これは、英語を自分で話すことによって、自分で構文を考える力がつき、相手が話そうとしている英語を予測しやすくなったためだと思っています。
やはり言語はどれだけ聞くか、ではなくどれだけ使うかを意識した方が学習効率が高いです。
単語帳、TOEICの対策本は書店に市販されているものでいいので、手を広げすぎずに同じものを繰り返し使うようにしましょう。
英会話
リスニング、スピーキング能力向上のために通う方が多い英会話教室ですが、個人的には対面の英会話教室よりオンラインの英会話教室をおすすめしています。理由は、以下の2つです。
- 金銭的に安価である
- 毎日受けられる
継続性を考えた時に、週末や平日夜の決まった時間に通う高額な対面の英会話教室よりも、安価で毎日受けられるオンライン英会話の方が初学者には向いていると思います。
自分で受講の予約を入れるのが面倒ですが、以下の英会話スクールであれば、レッスンの予約が不要なのでおすすめです。
- Cambly
- ネイティブキャンプ
他にもたくさんのオンライン英会話サービスがありますので、比較の上自分にあったサービスを探すのがいいでしょう。
米国公認会計士は必要?
最後に、日本の公認会計士が米国公認会計士を取得することについて、キャリアアップの観点から解説します。
米国公認会計士を取得するメリット
米国公認会計士を取得することで転職時にアピールできるポイントは以下の二つです。
- 一般的な日本の公認会計士に比べてUSGAAPの知識がある
- ビジネスレベルの英語力を有している
米国公認会計士ですので、JGAAPに加えてUSGAAPの会計知識を有していることをアピールできます。
USGAAPに詳しい公認会計士は多くありませんので、USGAAPを採用している外資企業の経理などでは応募の際に差別化できるポイントとなります。
また、米国公認会計士の試験は英語で行われるため、少なくとも読み書きにおいてはビジネスレベルの英語力を有していることの証明となります。
キャリア形成における必要性
前述の米国公認会計士を取得するメリットを考えた場合、公認会計士のキャリア形成においては必須とは言えないというのが正直なところです。
他の公認会計士と比べて、大きく有利な形で差別化できるのはUSGAAPを採用している外資系企業の経理という限られた場です。
その場合でもJGAAPとUSGAAPの違いを勉強していることを面接時にアピールすれば特に問題ありませんし、英語力についてもTOEICの点数や英語面接で問題無くアピールできます。
将来的にアメリカやオーストラリアとかで会計士業務をしたいという場合を除いて、日本の公認会計士にとってキャリアアップのために米国公認会計士を取得する必要は無いでしょう。
まとめ
以上で公認会計士のキャリアアップにおける、英語力の必要性についての解説とさせて頂きます。
この記事を読んで、是非自分のキャリアプランと照らし合わせてどの程度の英語力が自分にとって必要なのかを整理して頂ければと思います。
もし、自分のキャリアアップに英語力が必要だということが再認識でき、英語の勉強を始めるきっかけとなれば幸いです。